浜辺の砂に身体をあずけるように心地よくまどろむ、
北欧家具の名作「PP225 フラッグハリヤードチェア」
一日の終わりに、心から緊張を解ける場所はありますか。
あるいは、リビングルームに、ただそこにあるだけで空間の空気を変えてしまうような、力強い美しさを求めてはいませんか。
PP225 フラッグハリヤードチェア。
硬質な輝きの中に隠された、驚くほど有機的な安らぎ。
それは、北欧デザインの巨匠ハンス J. ウェグナーが、あえて得意とする「木」を使わず、異素材への挑戦の末に辿り着いた、「究極のリラクゼーション」の形です。
一見すると、ステンレススチールとロープで構成されたその姿は、どこかインダストリアルで、鋭い印象を与えるかもしれません。
しかし、その「強さ」に惹かれて腰を下ろした瞬間、あなたは良い意味で予想を裏切られることになります。
真夏の砂浜で生まれた、休息のアイデア
この独創的なデザインの原点は、1950年のありふれた夏の午後にあります。
家族と休暇を過ごしていたウェグナーは、子供たちが遊ぶビーチの浅瀬のそばで、持参していたシャベルを使い、砂を掘って寝椅子の形を作りました。出来上がったくぼみに寝そべってみると、それは驚くほど心地よいものでした。
その感覚を形にするため、彼はすぐにサマーハウスへ戻り、筆記具とメジャーを手に取って引き返します。
そして砂の寸法を細かく計測し、その熱意のまま図面へと描き起こしました。
自然の中で生まれた「心地よさ」を、工業的な素材で再現する。
ル・コルビュジエら初期モダニストへの敬意と、ウェグナー自身の遊び心が共存する名作は、こうして誕生しました。
スチールで見せる、優雅な構造美
前年に木工技術の極致ともいえる優雅な「ザ・チェア」を発表していたウェグナーにとって、金属を用いたモダンなこの椅子は、当時としては「クレイジー」とも思える対照的な作品でした。
「自分は木以外の素材も扱える」ことを示すかのような挑戦。
当時、自転車職人に依頼して作られたというエピソードからも、良いものを作るためには既成概念にとらわれない、彼の柔軟な発想がうかがえます。
当初はGETAMA社が製造していましたが、現在はPPモブラーが復刻。
素材をかつてのスチールから、より高品質なステンレススチールへと変更しました。
さらに、溶接やベアリングなどのディテールも見直し、専門家が見ても納得する高い精度で、本来のデザイン意図に忠実な形に仕上げています。
あらゆる角度から見ても隙のないその姿は、空間にモダンな彫刻のような存在感を与えます。
宙に浮くような座り心地の秘密
座った瞬間に感じるのは、適度な張りの中に身体がふわりと浮くような感覚です。
座面と背もたれを構成するのは、約240メートルにも及ぶ「フラッグライン(旗用ロープ)」。
ヨットの帆を張るために使われる強靭なロープですが、伸びを防ぐためPPモブラーでは芯にナイロンを通した特注品を使用しています。
製造時には、なんとクレーンを使ってロープを引き伸ばし、フレームに強いテンション(張り)を与えながら作業が行われます。
そうした大掛かりな工程を経て、張り詰めたロープを製品として美しく整え、仕上げていくには、熟練した職人の手が欠かせません。 強烈な張力を生み出す機械の力と、それを微調整し形にする人の手。
その両方が、長年使っても損なわれない快適な座り心地を支えています。
季節を問わない、極上の肌触り
この椅子の象徴とも言えるのが、硬質なフレームにふわりと掛けられた長毛のシープスキンです。
アイスランド産の上質な羊毛は、冬は温かく身体を包み込み、視覚的にも「硬と軟」の美しいコントラストを生み出します。
夏場はシープスキンを外し、ロープの通気性を活かして涼しく過ごすことも可能です。
広い座面は、まるでベッドのようにくつろぐことができ、どんな体勢で座っても身体をしっかりと支えてくれます。少し狭いながらも、2人で座ることさえ可能です。
クッションを使い、ブランケットを掛ければ、何時間でもくつろいでいられる──。
世界中の著名人や、デンマーク王室にも愛される理由は、この「圧倒的な使い心地」にこそあるのです。
「何もしない」を愉しむ、至福のリセット時間
リビングの窓辺や書斎の一角で、陽の光を受けて美しい陰影を描くフレーム。
ヘッドレストに深く頭を預け、思考を止めてみてください。
そのまま瞳を閉じてまどろむもよし、流れる雲や光の移ろいをぼんやりと目で追うもよし。
全身の力がふっと抜け、「何もしなくていい」という贅沢な時間が訪れます。
日常の喧騒を忘れ、自分だけの世界に浸るスイッチが、ここにあります。
巨匠の遊び心と、職人の誇りを、あなたの特等席に。
常識にとらわれないウェグナーの「遊び心」を、実用的で耐久性を持った家具へと昇華させたのは、紛れもなく作り手たちの「誇り」です。
自然から得た着想を、確かな技術で形にする。PPモブラーの真髄が、ここに息づいています。
クールな見た目に秘めた、包み込まれるような優しさを、ぜひ、あなたの毎日に迎え入れてみてください。