名作椅子の“原点”であり、北欧デザインの未来を拓いた一脚
1944年、ハンスJ.ウェグナーは「チャイナチェア」を生み出しました。
後に世界的名作となる CH24(Yチェア)やPP503(ザ・チェア)へとつながる、まさに“原点”。
ウェグナーのキャリアにとっても、北欧デザイン史にとっても、特別な始まりの1脚です。
ウェグナーのライフワークを彩る“再解釈”
ウェグナーの椅子づくりは、「どうすれば美しい椅子を、もっと多くの人に届けられるか」という問いから始まりました。
その出発点にあるのが、明代の椅子との出会いです。
インスピレーションの源は、17〜18世紀、中国・明(みん)代に生まれた伝統椅子「圏椅(クワン・イ)」です。
※明代は、日本でいう室町後期から江戸前期にあたり、今からおよそ400年前の時代。
ウェグナーが生涯を通じて貫いた美学──
“構造そのものを美として見せる” という思想は、まさに明代家具の核心と響き合うものでした。
模倣ではなく、“本質を現代へ翻訳する”
チャイナチェアからYチェア、ザ・チェアへと続くラインには、この「線の思想」が静かに受け継がれています。
ウェグナーは明代の椅子を単に再現したわけではありません。
そこに宿る 本質を抽出し、現代の暮らしに合う姿へと翻訳したのです。
「北欧の木材・20世紀の技術・現代の生活形式」
これらを融合させながら、明代の精神を“自分の言葉”で語り直した。
このアプローチこそ、後に続くウェグナーの 独自のリ・デザイン哲学の原点となりました。

大量生産を見据えた構造の探求や、軽やかさを求めた実験、素材への深い洞察。
Yチェアへ続くシンプルなラインも、ザ・チェアへ向かう王道の造形も、そのすべての始まりは チャイナチェア にあることが分かります。
「チャイナチェア」と名付けたことも、中国からインスピレーションを得たことを、隠すことなく、誰にでも分かる形で示しています。
ここから、自分のデザインが始まっている── そんな宣言のようにも感じられます。
“時をつなぐ”ことが北欧デザインの魅力

北欧デザインが特別なのは、過去・現在・未来が一本の線でつながっているからです。
過去の文脈を尊重し、現代の暮らしに寄り添い、50年後にも愛される形をつくる。
ウェグナーが明代から受け取った“構造の美”は、その北欧デザインの哲学と深く共鳴しています。

Yチェアが世界中で愛される理由は、その美学が一脚の椅子に自然に溶け込んでいるから。
10万円台で手に入る名作として支持され続けるのも、決して偶然ではありません。
現代の装飾的な椅子を見慣れた目には、源流となる椅子は一見、質素に映ります。
しかし、シェーカーチェアやウィンザーチェアと同様に、椅子のデザインは「削ぎ落とし」と「再解釈」を繰り返してきた歴史そのものなのです。
チャイニーズチェア(PP66)との違い
1945年、ウェグナーはチャイナチェアを改良し、「チャイニーズチェア(PP66)」を発表しました。
どちらも同じルーツを持つ椅子ですが、構造やデザインの思想に違いがあり、それぞれに独自の個性が生まれています。
ここで、両者の違いをわかりやすく比較してみましょう。
※左右にスクロールしてご覧ください
チャイナチェアは、高度な職人技と彫刻のような造形美が特徴で、堂々とした存在感と気品を放ちます。
一方、チャイニーズチェアは軽やかで扱いやすく、現代の北欧ダイニングにもすっと溶け込む、日常使いに適した1脚ではないでしょうか。
木工への情熱が宿るフォルム
チャイナチェアはフリッツ・ハンセンでは珍しい 純無垢材チェア。
木の力強さとしなやかさを活かし、積層合板や曲げ木に頼らず、装飾ではなく木の構造そのものを美しさに昇華させています。
優雅な湾曲アーム

人間が生み出す工業製品の中でも、これほど美しいカーブはなかなかないのではないでしょうか。
この曲線を描き、再現するには熟練工の手仕事が欠かせません。まさに、チャイナチェアの価値を決定づける特徴です。

実際に座ってみると、アームが自然に腕に寄り添い、「ここに腕を置くと楽だよ」とウェグナーがそっと導いてくれるような感覚に包まれます。
また、細いアームでありながら、肘下を置くスペースはやや平らに設計されており、こうした細やかな配慮が長時間座っても違和感なく感じられるポイントです。

▲光沢を帯びつつも落ち着いたマットな質感で、手に触れる心地もなめらか。
アーム先端は手のひらにやさしく収まり、触れるたびに心地よさを感じます。
むしろ、ここを触りたくて座りたくなるほどの魅力があります。
機能と美が調和した背板

背中を支える背板は十分な面積を持ちながら、必要な部分だけを的確に受け止めてくれます。
抜け感のある構成でありながら無駄を感じさせない佇まいは、機能とデザインが高い次元で調和していることを静かに物語ります。
彫刻作品のような造形美を備えつつ、身体をやさしく包み込むそのラインは、中国椅子に宿る優雅さを、現代の暮らしへと自然に受け継いでいます。
技と華が息づく、繊細な造形美

シンプルに見えて高度な職人技が必要な接合によって、高い強度と美しさが見事に両立されています。
特に脚と棚板をつなぐ部分に施されたフィンガージョイントは、まさに技術美の象徴です。
座面下の台座には、わずかな装飾的なくぼみがあり、どこか中国椅子の伝統を想わせる華やぎが潜んでいる。
過度な装飾を削ぎ落としながら、最小限の要素だけで「華美」を漂わせる、ウェグナーの感性に思わず唸ってしまいます。
前脚と後脚の“微差”が生む、自然のリズム

前脚はすっと直線的。
後脚は上部が細く、中間がふっくら、先端は再び細くなる──
そのほんのわずかな変化が、直線の中にやわらかな曲線を生み、自然美のような調和を感じさせていました。
木の呼吸を感じるような柔らかさを作っています。
想像を裏切る“しっとりした”座り心地
見た目はクッションが置かれているだけのシンプルな椅子ですが、その座り心地は想像を完全に裏切ります。

クッションは単に置かれているだけですが、外してみると下にはウェビングシートが施され、柔らかさと安定感を両立。
座り心地を保ちつつ、体圧を自然に分散させる構造になっており、交換も可能です。
ウレタン座面よりも長く愛用できるのも魅力のひとつ。

そしてクッション自体の意匠性も見事です。
厚すぎず薄すぎない絶妙なボリューム、縁を引き締めるパイピング、奇数(5個)のボタンが生み出す深み。
光が当たると影が落ち、まるで“花芯”のような立体的で奥行きのある美しさを見せます。
さらに、シートクッションは単品で購入可能。汚れた際には交換でき、長く清潔にお使いいただけます。
また、木材の経年変化に合わせて、レザーのランクを上げたり、異なる色に変えることで、新鮮な印象を楽しめるのも魅力です。
築150年の建築と響き合う姿

2025年秋、FRITZ HANSENとCONNECTのコラボイベント「FRITZ HANSEN EXHIBITION in HONJIMA」。
3度目となる本イベントでは、新たな会場「Kasashima to.」にて、創業150年を超えるFRITZ HANSENの歩みを、各時代の名作とともに体感できる、特別なギャラリー空間が誕生。

その「Kasashima to.」に置かれたチャイナチェアは、まるで時間をまとった彫刻のようでした。
扉から射し込む光がアームをなぞり、影までもがデザインになる。
生まれて80年以上、なお新しく、なお品格がある。
古民家と北欧デザインの“時間のレイヤー”が静かに溶け合う瞬間でした。
「百年を超える建築」と「北欧デザインの普遍的な美しさ」。
時間を超えて受け継がれる素材や建築と調和するチェアをお探しの方に、ぜひおすすめしたい1脚だと感じました。
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バリエーション
木材
・チェリー(ラッカー仕上げ)
・ブラックアッシュ

オリジナルのチャイナチェアは、1944年の発売当初、チェリー材で製造されていました。
その後、マホガニーやウォルナット、パリサンダーなど、さまざまな木材でも生産されましたが、現在はいずれも製造されていません。
2005年以降は、原点であるチェリー材仕様へと回帰し、近年ではブラック仕様も加わっています。

チェリー材は、チャイナチェアのような複雑な木製フォルムを成形するのに非常に適した素材です。
比較的柔らかく、硬さはチークよりやや低い位置にあり、曲げやすさと加工のしやすさを持ちながら、成形後も十分な強度を保つことができます。
また、チェリー材ならではの美しい色味と経年変化も大きな魅力です。
使い込むほどに少しずつ明るさを増し、深みを帯びていく一方で、色調が損なわれることはありません。
木目がきめ細やかで整っているため、多くの部材を組み合わせるチャイナチェアにおいても、全体に統一感のある美しい表情を生み出します。
シートクッション
オーラレザー、グレースレザー、ナチュラルレザーなど、複数のレザーから選択可能。
チャイナチェアのコーディネート例
北欧モダン、ナチュラル、オリエンタル。
どんなテイストにも静かに寄り添いながら、空間に奥行きと品格をもたらします。
ここでは、暮らしの中で美しく映える3つのコーディネート例をご紹介します。
1.玄関やリビングに“1脚だけ”── オブジェのように佇ませる

▲ホワイトのレザークッションは現在お選びいただけません。
チャイナチェアは、一脚だけでも空間を引き締める存在感を持っています。
光の差す場所に置けば、背もたれの曲線が影となって床に映り、まるでアートピースのよう。
読書やコーヒーを楽しむ“ひとり時間”の椅子としても最適で、部屋に静かな品格と落ち着きをもたらします。
2.デスクと合わせて、優雅なワークチェアとして

曲線が織りなす背もたれのラインは、デスクワークの姿勢をやさしく支え、仕事の時間さえも豊かに整えてくれるようです。
ワークスペースのアクセントとして置けば、ふと視線が休まる美しい佇まいに。
3.ダイニングに複数並べて、空間そのものの主役に

▲PK54 大理石(マットポリッシュ:グレーブラウン)
無垢材の柔らかい肌と、精巧なフレームライン。
異素材のテーブルと合わせると、その美しさが一層際立ちます。
座る人の背中に見える曲線は、一脚ごとに少しずつ異なり、並べて置くことでダイニング全体に豊かな奥行きが生まれます。
お手入れの仕方・お取り扱いの注意点
■ラッカー仕上げ無垢材
https://www.fritzhansen.com/ja/categories/materials/cllasw
■レザー(クッション)
https://www.fritzhansen.com/ja/Tools/Materials-and-Colours?activeTag=%E3%83%AC%E3%82%B6%E3%83%BC