時を超え、蘇る名作。幻のラウンジチェア『PK23』
復刻、知られざるケアホルムの挑戦
2024年、約70年の時を経てポール・ケアホルムの名作ラウンジチェア『PK23』が復刻しました。
その始まりは1954年。
成形合板という新たな素材に可能性を見出したケアホルムが、卒業制作で手がけた名作「PK0」に続き、木という自然素材を使って“構造美”を追求した、彼の初期の挑戦のひとつです。
当時、彼はフリッツ・ハンセン社に在籍し、アルネ・ヤコブセンと協働しながら、自身のデザイン哲学を磨いていた時期でもありました。
「PK23」は、そんな充実期に生まれた貴重な作品でしたが、その複雑な構造は、1950年代当時の技術では安定して製品化できず、長らくプロトタイプのまま、“幻の椅子”として眠りつづけてきたのです。

そして2024年。
フリッツ・ハンセン社の技術革新により、ようやくケアホルムの構想が本来のかたちで蘇りました。
単なる復刻にとどまらず、素材の質感、構造の緊張感、座ったときの“しなり”まで、彼が理想としたすべてを、現代の技術で丁寧に再現しています。
『PK23』は、今あらためて北欧家具の歴史の中でも“語り継がれるべき一脚”として、ようやく私たちの暮らしの中に迎え入れられる存在となったのです。
見た瞬間に、心を奪われる“抜け”の美しさ

▲シェルには、木目が左右対称になるよう選び抜かれたプライウッドが用いられており、角度をつけて精緻にカットされているそう。
まず目を惹くのは、中央で縦に割られた背と座のスリット。
ふたつの合板シェルが、絶妙な角度で寄り添いあうように伸び、どこか葉っぱや羽のような自然なフォルムを描いています。
このスリットは、装飾ではありません。
当時の技術では不可能だった三次元成形を、ケアホルムは“分割”という発想で突破したのです。
結果としてこの大胆な構造が、座り心地とデザインの両立を叶え、視線がすっと抜ける“軽やかさ”を空間にもたらしています。

視覚的な圧迫感を和らげ、空間に呼吸のような余白を与えながらも、椅子そのものの存在感は失わない。
それもまた、PK23の静かで力強い魅力の一部なのです。

▲繊細にデザインされたコネクターにより、横から見ると、座面はまるで宙に浮かんでいるかのよう。
さらに、座と背をつなぐ2つの小さな金具が、構造の要でありながら、まるでアクセサリーのような存在感。
木のやわらかさと金属の静けさが、美しいコントラストを生み出しています。

光が差し込むと、マットな木肌に静かな陰影が浮かび上がり、まるで自然の彫刻のように表情を変えます。
この椅子は、“座る”だけのものではありません。
眺めるたびに、空間の風通しと静けさを感じさせてくれる、“呼吸する家具”なのです。
進化と継承── PK0・PK4との対話の中で
PK23は、ケアホルムのほかの名作とつながる“交差点”のような存在でもあります。

たとえば「PK0」。
成形合板で曲線を描いたそのデザインは、当時の技術では製品化が難しく、長年プロトタイプのままでした。
しかし2022年、フリッツ・ハンセン社はこれを「PK0 A」としてついに復刻。
そして2024年、『PK23』が後に続きます。どちらも、かつては実現できなかった美しさを、最新技術でかたちにした一脚です。

また「PK4」とも、美学の系譜を共有しています。
PK4のスチールと麻ひもによる軽やかな構成は、視線の抜けと開放感を生み出しました。
PK23もまた、空間に“抜け”を生み出す椅子。スリットのあるシェルは、身体をしなやかに支えながら、視覚的な圧迫感を与えません。
素材感や座り心地はまったく異なりますが、ケアホルムが大切にしていた空気感は、どちらにも息づいています。
PK23のコーディネート例
1. モノトーン空間に、リズムとやさしさを。

▲PK23・PK60(ブラックカラードアッシュ)
黒やグレーを基調とした無彩色の空間は、ときに重く、閉ざされた印象を与えがちです。そこにPK23をひとつ加えるだけで、柔らかな曲線と構造のリズムが生まれ、静かな軽やかさを添えてくれます。
約6kgという軽さで、必要なときにすっと持ち上げて、窓辺や書斎へ。視線が抜けるため、限られたスペースのリビングやマンションでも、圧迫感なく自然に溶け込みます。
静けさのなかに美しさを宿した、そんな暮らしを願う人にそっと寄り添ってくれる存在です。
2. 和室に溶け込む、北欧の詩情
低めの座面、マットな木肌、繊細なコネクター。どこか“工芸品”を思わせるディテールが、畳や障子とも美しく調和します。
背と座のスリットから見える光と影は、まるで風を通す縁側のように、静けさとぬくもりを運んでくれます。
北欧の静けさが、日本の空間にそっと寄り添う── そんな新しい美の調和を、PK23が教えてくれます。

▲トレイテーブル φ45cm オーク
そして、そのPK23に静かに寄り添いながら、空間に美しいバランスをもたらすのが、フリッツ・ハンセンの「トレイテーブル(Tray Table)」です。
軽やかなフレームと、取り外し可能なトレイ構造。“使う”と“飾る”を両立させたミニマルな佇まいは、PK23が持つ緊張感と詩的な構造美と、見えないところで静かに共鳴します。
読書の合間に本をそっと置いたり、ハーブティーやお気に入りのグラスを手元に置いたり。そんなささやかな所作が美しく決まり、暮らしの風景が自然と整っていく。
それが、PK23とトレイテーブルの組み合わせがもたらす、上質で静かな調和です。
しなる背、やさしく支える座

PK23の座り心地は、見た目の彫刻的な美しさとは裏腹に、意外とやさしい。
最新の成形技術により、ケアホルムが思い描いていた“しなり”を美しく実現し、体の曲線にそっと寄り添うようにフィットします。
けれど、それはふかふかのラウンジチェアのように深く沈みこむ柔らかさではありません。むしろ、背筋をふわりと伸ばしてくれるような、程よい緊張感と軽やかさがあります。
たとえば、午後の光を浴びながらお茶を一杯。窓の外にゆれる木々をぼんやり眺める時間。
本を読むほどの集中ではない、けれど確かに「自分に戻る」ための数分間。そんな“間”を受け止めてくれるのが、この椅子です。
身体をあずけると、自然と気持ちが整っていく。力を抜きすぎず、けれどどこか自由に。
日々のなかでほんの少し、呼吸を深くしたい方へ。『PK23』は、暮らしに“整える時間”をもたらしてくれる椅子です。
最初は気になるかもしれない中央の割れ目も、背をあずけた瞬間、違和感がすっと消え、自然と身体に馴染んでいく。そこには、機能と造形が溶け合う、静かな感動があります。
そんな"しなり"を叶えるために無垢材ではなく、あえて選ばれた成形合板。軽やかで、でも芯のあるしっかりとした安心感が、日常の中で心地よく、長く付き合っていける理由です。
デザイナー:ポール・ケアホルムの美学
ポール・ケアホルムは、1929年にデンマーク北西部の田舎町で生まれました。
15歳で家具職人に弟子入りし、18歳でキャビネットメーカーのマイスターの称号を取得。
ハンス J. ウェグナーのもとで様々なことを学び、バウハウスからも大きな影響を受けていました。
デンマークのクラフトマンシップの精神を継承しながらも、型にはまらない異色の才を示し続け、
北欧モダン家具の歴史に大きく名を残したデザイナーです。
PKシリーズは、51歳という若さで早世したケアホルムに敬意を表し、
1982年からフリッツ・ハンセンによって製造が開始されました。
彼の生み出した名作の数々は時代を超えて多くのファンに愛され、
現代の名だたるデザイナーや建築家たちからも、非常に高い評価を得ています。
時間と空間をつくる家具デザイン
ポール・ケアホルムは、自らを「家具建築家」と称することを好みました。
彼は“ただ通り過ぎるだけでなく、明確な人間関係が構築される空間”を目指し、
家具が空間に与える作用と、そこで生まれる人間の営みまでをも見据えて、ひとつひとつの家具を設計していったのです。
▼生前の自邸の写真 奥:PK11(チェア) 手前:PK31(ソファ)

ケアホルムのデザインは、徹底的に無駄をそぎ落とし、
構造を明確にすることで素材ひとつひとつの美しさが際立っています。
“家具が明晰な美しさを持っていれば、そこで過ごす人々の関係性も風通しの良い澄んだものになる”
そんなことを彼は考えていたようです。
美の追求
PKシリーズには、ポール・ケアホルムによる徹底的な美の追求が見てとれます。
家具は暮らしの中で、一般の多くの人に使われる実用的な工業製品です。
しかし同時に、ケアホルムは家具をつくるうえで、自らの美学を表現することにも一切の妥協を許しませんでした。
“美的感覚やデザインに価値を感じないのなら、段ボールに座っているようなものだ”
ケアホルムの家具デザインの背景には、このような確固たる哲学がありました。
▼1952年 チューリッヒの応用美術展の写真(右奥にPK25、手前にはPK60が並べられ、左奥にはPK0の座面が裏返しで吊り下がっている)

ポール・ケアホルムの大きな功績の一つは、それまで家具製作にあまり使われてこなかった木以外の素材を、非常に美しく機能的な素材としてデザインに取り入れたことです。
PKシリーズを象徴する代表的な素材は「スチール」。
ケアホルムは、“木材やレザーと同様に、スチールも風合いを増してゆく芸術的な素材だ”と考えました。
その厚みや表面の加工方法にいたるまで何度も試行錯誤をくり返し、
無機質で冷たい素材と思われていたスチールが、本当は木にも劣らない美しい素材であることを示したのです。
▼森の写真パネルを背景に、PK22のフレームがずらり。ケアホルムが自然と調和するデザインを追い求めていたことがわかる1枚。

ケアホルムの作品は、他の木製家具とは異質な素材とデザインでありながら、
有機的で、どこか自然の美を感じさせる豊かな表情をもっています。
そこには、“美しさの基準は自然界にある”と常に考えていた、彼の自然への憧憬が表れています。
卓越したセンスで描かれた曲線美。選び抜かれた素材のなめらかな手ざわり。澄明な構造と生き生きとしたプロポーション。
木々の伸びやかな幹や枝のような、自然の中に遥か昔から息づいている根源的な美しさを、
家具デザインを通して私たちに伝えてくれているように思えます。
リ・デザインの精神
ケアホルムは、偉大な先人のデザイナーや建築家に敬意を払い、彼らの作品を熱心に研究していました。
そのうえで、より一層そのデザインの本質に迫り、洗練されたものを生み出そうとする「リ・デザイン」の精神で、
先人たちを超えていこうと常に挑戦していたのです。
PK80も、ミース・ファン・デル・ローエとリリー・ライヒが1930年にデザインしたカウチソファをモデルに制作されました。

関わりのあったオーレ・ヴァンシャーやハンス J. ウェグナーといった北欧モダンの先駆者や、
ミース・ファン・デル・ローエをはじめとするバウハウスの偉大な先人たちから大きな影響を受け、
伝統と歴史の流れにしかと身を置きながら、常に新しい価値を生み出し続けたポール・ケアホルム。
彼の作品には、デンマーク家具の歴史と一人の人間の生き様が深く刻み込まれています。
ポール・ケアホルムについてもっと知りたい方はこちら
サイズ
高さ69.5cm / 幅75cm / 奥行き62cm / シートの高さ36cm

張地・カラーバリエーション
■シェル:カラードアッシュ(ブラック)/ ベース:ステンレススチール(マット サテン仕上げ)

■シェル:カラードアッシュ(ブラック)/ ベース:ステンレススチール(粉体塗装仕上げ)

■シェル:ナチュラルウッド(オーク)/ ベース:ステンレススチール(マット サテン仕上げ)

■シェル:ナチュラルウッド(ウォルナット)/ ベース:ステンレススチール(マット サテン仕上げ)

FRITZ HANSENの公式サイトにて、カラーのシミュレーションやAR機能を使った設置想定ができます。ぜひお試しください。
https://www.fritzhansen.com/ja/categories/by-series/pk23/pk23?sku=PK23-OAK001-MPSS_GFN
お手入れの仕方・お取り扱いの注意点
・木材(ラッカー仕上げまたは着色塗料仕上げ)
https://www.fritzhansen.com/ja/sales-support/care-and-maintenance/lacquered-or-coloured-wood
・フレーム(ステンレススチール - サテン仕上げ)
https://www.fritzhansen.com/ja/sales-support/care-and-maintenance/stainless-steel
・フレーム(スチール - 粉体塗装仕上げ)
https://www.fritzhansen.com/ja/sales-support/care-and-maintenance/powder-coated-metal
在庫状況・納期・搬入について
PK23は現在国内在庫がなく、海外からの取り寄せとなっております。
納期の目安は約5か月です。
組み立て済み・段ボール梱包にてお届けし、設置・残材処理まで無料で行います。